電気自動車が自動車産業をリセットする


昭和シェルと日産が電気自動車の急速充電器の共同開発を発表しました。日産は先日本来東京モーターショーで発表する予定だった量産型電気自動車のモデルを、横浜オフィスのオープンに合わせて先行して発表したばかりです。昭和シェルも、自社開発の太陽光パネルを巡るニュースを多く発表しています。ここのところ電気自動車を巡る動きが活発になってきているという印象を受けます。
電気自動車といえば、先日紹介した妹尾氏の著作の冒頭に衝撃的かつやや挑発的なエピソードが紹介されていました。それは、氏が名古屋方面で開かれた自動車関連のカンファレンスにおいて、自動車産業の主軸がエンジンを用いた現状の自動車からからモーター利用の電気自動車にシフトすることで、産業構造は大きく変化し、日本のメーカーは主要なプレイヤーの位置にとどまることができないのではないかと指摘したというものです。
内燃機関利用の自動車は部品数も多く、部品と全体の「すり合わせ」が必要で、ここに日本メーカーの強みが発揮されています。一方、電気自動車は部品も少ないばかりか、部品がモジュール化されるため、あたかも組み立てPCをつくるかのようにして電気自動社を組み立てることができるようになり、すり合わせによる競争優位性が効かなくなるという主張です。以前ここで、韓国のゴルフカートメーカーが開発した安価な電気自動車が九州エリアで限定発売されていることを紹介しましたが、この事実とも辻褄が合う指摘です。
もちろん妹尾氏のこの主張は極端な側面があることを否定できません。しかし、このような極端な例を提示しながら、氏は日本の自動車産業が来るべき電気自動車市場時代に備えることに警告を発しているということなのだと思います。それほどまでに電気自動車のインパクトは大きいということです。電気自動車市場は現状の自動車とは似て非なるものであるという認識を持つ必要がありそうです。

人間中心イノベーションの夜明け


8月18日付け日本経済新聞の経済教室欄に東京大学の堀井秀之氏が、日本のイノベーションのあり方について寄稿されています。
この中で堀井氏は、技術志向のイノベーションから離れ、生活者主体のイノベーションに注目すべきであるとしています。この考え方は、人間中心イノベーション(Human Centered Innovation)と呼ばれ、Business Weekなんかも数年前から追いかけているテーマの一つです。
この寄稿の中では、デザイン思考(Design Thinking)というもう一つ鍵となる概念が紹介されています。Design Thinkingはこの文章中でも紹介されているIDEO社の社長、Tim Brown氏が、IDEOの活動や以前ここでも紹介したTEDなどを通じて世の中に伝えています。
堀井氏はこれらの概念を紹介しながら、技術思考のイノベーションから離れて考えることの重要性を説きます。また、これらの考え方が日本のイノベーションのあり方に合っているのではないかという問題提起をしています。またその活動の一環として、以前ここでも紹介した東京大学のi.Schoolの活動にも触れています。
日経新聞東京大学の教授によるこのような記事が紹介されているのが大変興味深いです。かならずしも人間中心イノベーションのみが、イノベーションの有効なあり方だとは思いませんが、これまで日経新聞、あるいは東京大学といった日本のメインストリームの文脈で語られてこなかったのは間違いないでしょう。日本らしいイノベーションのあり方を考えるときに、人間中心イノベーションが選択肢の一つとして考慮されはじめていることに意味があるのではないかと思います。

技術力で勝る日本がなぜ事業で負けるのか?

妹尾堅一郎氏による興味深い書籍が出版されています。
全体を通じて著者の主張は明確です。日本は技術「大国」ではあるが、技術「立国」ではない。すなわち、技術における優位性を国家の利益に還元できていないとします。
多くの日本企業の製品は、市場創出期には高いシェアを持つが、市場が成長するごとにそのシェアは低下する傾向にあると指摘します。DRAM、液晶パネル、DVDプレーヤー、太陽光発電パネル、カーナビなどにこの現象が当てはまります。
この状況を打開するためには、技術の優位性を活かす企業経営が必要であり、具体的には事業戦略と、研究開発戦略、および知財戦略の三社が”三位一体”となって経営を支えていく必要があると説きます。
他にも、はっとさせられることがいろいろ書いてあります。一部を紹介すると・・・
イノベーションとはインベンション(発明)とは違う。イノベーションとは、インベンション×ディフュージョン(普及)であり、インベンションの質だけでは市場で成功することがなくなってしまった。これが今の日本企業が置かれている状況であり、この状況そのものが、80年代−90年代の日本の成功要因を徹底的に学んだ欧米諸国により意図的に作り出されたものだと指摘します。つまり、インベンションにおける日本の優位性を無効化するような世界の構造が作られてしまったというわけです。
関連して、「真珠湾マレー沖海戦志向」というものが紹介されています。第二次大戦中、真珠湾でもマレー沖でも空軍力で勝利をおさめたにも関わらずその勝利要因を分析しなかったために、逆に敗戦要因を分析し空軍に徹底的な資源配分を行なった連合国に対して、巨大戦艦を建造し続けるといった過ちを犯したというものです。
妹尾氏はこのことが現在のイノベーションを巡る構造についてもいえると指摘します。日本企業は、従来モデルの自覚もなく、新しいモデルにも気付いていない。ましてや新しいモデルをつくろうとすることもないとしています。
他の議論も含めて、この領域の議論において共通しているのは、ルールをつくることの重要性です。まさにこの書籍のタイトルが示しているように、客観的事実としての優位性を持っていたとしても、市場におけるルールに即していなければそこで成功することは難しいのです。
日本人はルールは与えられるものという意識が強いのかも知れません。これまで世界を支配するルールを作ってきた経験もそれほどないかも知れません。慣れないことをするのは時間がかかるかも知れませんが、ルールを適用される側に立っていることに危機感を持ち、ルールを定める側に回ろうとする方向に舵を切ることが必要なのではないかと思います。

戦国武将が注目される理由とは?


中国で戦国武将が人気ということを書いたと思ったら、雑誌PENで戦国武将特集をしていて、おもわず買ってしまいました。中身はPENらしい視点で、武将だけではなく、甲冑や武器のデザイン、美術品、城、家紋などが取り上げられています。
PENでは以前から茶の湯や江戸のデザイン、神社や寺を取り上げたりしているので、その延長ともいえなくもないですが、まさか戦国武将とは。
ちらほら耳にするところでは、中国だけではなく、日本でも若者を中心にこうした戦国モノが注目されているようです。今回のPENの特集はこのあたりの背景を踏まえたものかと思います。中には、戦国武将や明治維新の志士たちが好きな「歴女」と呼ばれる人たちがいるとか、はたまた歴史好きを標榜するアイドル「歴ドル」までいるらしいです。
しかし、なぜここに来て戦国なんでしょうか。いろんな理由はあると思いますが、中央集権的なモノカルチャーから地域分散的なマルチカルチャーへの流れというのが一つの背景にあるのではないかと感じています。
日本はずっと大きな物語をみんなで共有するモノカルチャーの文化でした。東京圏などの人口密集エリアでは、大きな物語の下部構造にサブカルチャーとしてのフラグメント化された文化が力強く育まれており、これはこれで今後も維持されると思います。一方、地方では、これまではこの大きな物語サブカルチャーのミニチュアが存在するという構造でした。
今起こっているのは、地方の独自性を強く期待する動きではないでしょうか。独自性という意味では、明治維新期のプレイヤーに注目されてもいいかも知れませんが、彼らは大なり小なり中央集権的なものを目指した人々ですし、幕藩体制期の藩にしても、中央におけるメインカルチャーサブカルチャーの関係のミニチュアが地方にも存在する現在の構造とよく似ているかも知れません。その点、戦国の時代は、政治的安定期に挟まれた内乱期であり、エリア別、武将別の独自性が際立っていた時代だといえます。武将などのキャラクター性や国というエリア性、そしてかけひきや善悪などがそのわかりやすさをさらに引き立てています。
うーん、それでもなぜ戦国なのかまだちょっとピンとこないところもあります。時代の混乱期だからこそ、下克上でもいいんじゃないか?ということを社会が承認し始めているのかも知れません。

日中市場のクロスボーダー化が進む


またまた中国ネタですが、週末に日中市場のクロスボーダー化を象徴するニュースがいくつか出ています。
まずは、三菱東京UFJ銀行が日本の食品関連中小企業の中国圏進出のサポートを行っているというもの。香港で行われている「香港フード・エキスポ2009」へ出展する国内企業7社をサポートとしたということです。こうした活動を銀行が行っているという事実が興味深いです。産業の黒子役である銀行が中小企業の海外進出をサポートしているという点が象徴的な事実です。昨日紹介した南京水游城にはこれまたびっくりするほどきれいなスーパーが入っていましたが、その中でも日本のりんごやあきたこまちなどの米が売られていました。こうした動きは今後もさらに拡大するでしょう。
もう一つは、逆に中国の消費者が日本で消費をするという話です。SBIベリトランスが昨年オープンした中国人観光客向けの日本でのショッピング情報サイトをさらに拡充すると報道されています。傑街同歩(ジェイジェストリート)というこのサイトでは、現在、かに道楽、西武百貨店ビックカメラ洋服の青山、コメ兵など15店が紹介されていますが、これをいっきに300店に拡充するということです。これらのお店では、中国で発行されている銀聯カードというデビッドカードを使うことができます。
SBIベリトランスはこのほかにも、佰宜杰.com(バイジェイドットコム)という日本企業が中国人の顧客に商品を販売するためのECサイトも持っています。こちらは今年の4月に本オープンしたようです。このサイトを見ていて面白いのは、カメラや時計、ゲームなどが販売品目の上位に上がってくるのはもとより、浄水器やウォシュレット、魔法瓶、サプリメントなども上位に上がっているという事実に大変興味深い驚きを覚えます。
これらは、日本でも銀聯カードを発行している三井住友カードSBIベリトランスが協力しながら展開しているようです。三井住友カードは早くから銀聯カードとの提携を進めていますが、他にも銀聯カードを使って日本のATMで現金を引き出せたり、様々なところで利用シーンが広がっています。

80后は日本企業のターゲットとなるか?


もうちょっと80后について書きます。
数年前、よく中国に出張してました。時々現地でグループインタビューなんかやると、大学生の対象者は、その上の世代の30代、40代と比べるとものすごい不連続感にあふれた人々だったことを思い出します。もう見た目すごくアメリカナイズされているし、パンツ腰履きしてるでしょー、みたいな感じでした。今思えば、あれが80后だったのかー、と。
このゴールデンウィークに上海に遊びに行ったのですが、上海もさることながら印象深かったのは、南京。上海から南京までは日本の新幹線に似た高速鉄道が運用されていて、2、3時間で行くことができます。その南京の地下鉄の中がもう、あれーここは東京か?と思うほど、現代的なのです。東京は言い過ぎかもしれませんが、少なくとも香港だと言って写真を見せられればわからないかも知れません。やはり特に若者です。みんなうつむいて携帯をポチポチやっていました。
さらに驚いたのは、市内のショッピングモール、南京水游城(Nanjing Aqua City)を訪れた時のことです。ここは、福岡のキャナルシティを手がけた福岡地所が総合プロデュースを行って2008年にオープンしたものです。キャナルシティがそのまま小さくなったような印象のショッピンモールでした。入ってるお店も、ユニクロ無印良品、H&Mだったりして、さながら日本で新しくオープンしたモールのようです。
写真はそのモールの中にいた若い夫婦です。ちょっと分かりにくいのですが、左の男性は幼い子供を抱えています。格好もそれなりにおしゃれ。休日代官山あたりを子連れで歩いているカップルのように見えなくもない。訪れたのは平日だったのですが、この人たちは普段何をしてるのだろうか・・・と想像が膨らみます。
知ってる人は知っている、でも知らない人は知らない。これが中国の今の姿です。北京、上海、広州あたりの都市は一線都市といういわゆる1st tierにあたり、これらの都市の発展がそれなりであることは日本の多くの人々が認知するところだと思います。南京クラスの都市の数はこれら一線都市よりもさらに増えます。こうした都市における購買力のある中産階級の台頭は、日本企業のターゲット層として今後も注意して見ていく必要があるかと思います。

中国では日本の戦国武将が人気

中国新人類・八〇后(バーリンホゥ)が日本経済の救世主になる! (洋泉社Biz)

中国新人類・八〇后(バーリンホゥ)が日本経済の救世主になる! (洋泉社Biz)

中国で注目される1980年代生まれの若者、80后(バーリンホウ)についての書籍を読んでいたら、興味深い記述を見つけました。
なんと中国では、1950年代から1960年代にかけて日本の新聞に連載されベストセラーになった山岡壮八著の小説「徳川家康」が計200万部以上を売るベストセラーになっているというのです。経済危機による状況において、いかに困難を乗り越えるかを考えたとき、家康の生き方や戦略に共感する企業経営者や役人などに支持されているらしいです。なるほどー。
さらには、そのブームの背景として80后世代にはゲーム「信長の野望」などの影響もあって、日本の戦国武将好きが少なからずいるということらしいのです。確かに、同じくゲームやマンガなどの影響を受けて日本の少年が三国志について詳しかったりすることの逆のパターンといえばそれまでかも知れませんが、ちょっととした驚きを感じます。戦国武将までコンテンツ消費の対象になってしまうのか、と。
韓流ドラマブームで中高年女性をはじめとした日本の旅行客が韓国のドラマ関連エリアを観光したのと同じような感覚で、中国の80后たちが日本の戦国時代の名跡を観光して回る日が来るのは近いのかも知れません。