日本型イノベーションの姿

日本型イノベーションのすすめ

日本型イノベーションのすすめ

妹尾氏の著作に先行して、昨年明治大学の小笠原氏による日本型イノベーションに関する著作が出ています。人文科学のバックグランドを持ちながら、ビジネススクールを経て、ビジネスコンサルティングファームや、米国大手企業の本国オフィスなどでの勤務の経験を持つ著者ならではの視点で日本型イノベーションのあり方を模索した良著です。
著者のスタンスは米国での経験を踏まえてのものなのか、グローバル経済に迎合するのではなく、日本の事情に合わせた日本独自のイノベーション経営のあり方があるのではないかというものです。
このスタンスを起点にしながら、欧米の思考方法と日本の思考方法を比較し、日本型イノベーションのあり方を探ります。
簡単のその主張を紹介すると、欧米型プロセスは、主観性を排除し、一般性を重視、事象を一般的に説明すること、またコントロールすることを是とします。一方、日本型思考プロセスは、欧米がモノ的であるとすると、コト的であるとし、主観が対象を経験することを重視します。すなわち、欧米が一般性やその背景にある仕組みを重視するのに対して、日本は、一回性や経験そのもの、結果というよりもそのプロセスそのものを重視すると捉えています。
故に、日本型イノベーションは、欧米型のように再現性追求型の制度設計的なものを目指すのではなく、非意図的な結果も許容するようなプロセス重視型であるべきだという主張です。著者の言葉を引用すると「再現性を問わない終わることのないプロセス遂行を通じた、非本来的偶発を起こす柔らかいシステム(日々の目標に従属しないプロセスの遂行)」ということになります。この認識は、先日紹介した日本における電子マネーの普及プロセスにも通じるとろがあるのではないでしょうか。著者はその上で、日本型イノベーションとは、「結果としての非意図的な非連続性を許容するイノベーションである 」としています。
これらを平易に読み解いていくと、日本型イノベーションのチャンスは、人間の主観的経験を重視し、不確実な変化に柔軟に対応していくところにチャンスがあるということでしょうか。このスタンスは先日紹介した人間中心イノベーションの発想にも近いところがあります。堀井氏が直感的に人間中心イノベーションの方法論が日本的志向プロセスに合うのではないかと指摘するのも、小笠原氏の主張の根底に流れる認識と共通するものがあるのではないかと思います。