変わらないことの価値


リコーからGR Digitalの三代目が発表され、Blogやニュースサイトをにぎわせています。
上の写真は、リコーのサイトにある一代目から三代目の製品写真を並べてみたものです。びっくりするくらいデザインが変わっていないことにこれまたびっくりします。3つの画像を一つにしている作業中、どれがどれだかわからなくなるくらいでした。ちなみに、一番上から一代目、二代目、三代目です。そもそも公式サイトに一代目の情報がまだそのまま残っていることにも驚きます。一代目は2005年、二代目は2007年にそれぞれ発売されています。
非常に興味深いのは、三代目の発表と同時に、二代目の最新ファームウェアの提供も発表されているという点です。ファームウェアというのは、デジカメに内臓されているソフトウェアです。ハード面では、さすがに三代目の新しさには勝てませんが、ソフト面で二代目もできるだけ三代目に近い状態で使えるようとのメーカー側からの配慮なのではないでしょうか。ちなみに、二代目が発表された際に一代目の通算5回目となる最後のファームウェアアップデートが発表されていることからも、一貫したポリシーのようです。
通常ならば、前モデルのケアなどせずに、買い替え需要を喚起すべく新しいモデルの紹介に集中していくというのがメーカー側の利害に合った行動だと思うのですが、GRに関してはこのあたりの常識では動いていないようです。一方、ユーザー側からするとこれは大変安心できることです。こうしたメーカーの懐深い姿勢に、GRというブランドへの信頼と絆が深まり、同じGRへ買い換えるという方も多いのではないでしょうか。
また買い替えのタイミングに関しても、三代目が発表された時点で、二代目のファームウェアも最新になっているため、二代目を使っているユーザーもすぐに買い換える必要がありません。これは生産数量の平準化という観点で見るとメーカーにメリットがあることです。モデルの生存期間中、一定のボリュームで売り続けることが生産効率や価格コントロールの観点からも理想なのではないでしょうか。
こうした特徴はこれまでのマスプロダクト・工業製品の常識から大きく外れることです。デザインが変わらないということでは、BMW Miniがモデルチェンジしたときにも同じような傾向が見られました。一代目と二代目を比較しても、デザインの方向性に大きな変更はありませんでした。BMW MiniとGRの共通点は、オリジナルがあるということです。Miniはローバー社から出ていたものがそうであり、GRは銀塩カメラのGRです。オリジナルがもっていた「らしさ」を継承しながら現代版として再生し、その現代版のモデルチェンジにおいてもブランドが持つ「らしさ」の維持に注力するという仕組みです。ある意味正しいブランディングのあり方といえると思います。
一方でこうした戦略はGRが国内を中心としたニッチマーケットにおける商品だからできることだという見方もあると思います。これがキヤノンソニーにできるかというとなかなか難しいところがあるかもしれません。キヤノンソニーやグローバルトップメーカーとして、世界中で大量に売れる商品でサムスンなどに対抗しなければならないからです。そういった意味でも、リコーの戦略は自らの立ち位置を非常に正確に理解した上での鋭いものであることがわかります。