技術力で勝る日本がなぜ事業で負けるのか?

妹尾堅一郎氏による興味深い書籍が出版されています。
全体を通じて著者の主張は明確です。日本は技術「大国」ではあるが、技術「立国」ではない。すなわち、技術における優位性を国家の利益に還元できていないとします。
多くの日本企業の製品は、市場創出期には高いシェアを持つが、市場が成長するごとにそのシェアは低下する傾向にあると指摘します。DRAM、液晶パネル、DVDプレーヤー、太陽光発電パネル、カーナビなどにこの現象が当てはまります。
この状況を打開するためには、技術の優位性を活かす企業経営が必要であり、具体的には事業戦略と、研究開発戦略、および知財戦略の三社が”三位一体”となって経営を支えていく必要があると説きます。
他にも、はっとさせられることがいろいろ書いてあります。一部を紹介すると・・・
イノベーションとはインベンション(発明)とは違う。イノベーションとは、インベンション×ディフュージョン(普及)であり、インベンションの質だけでは市場で成功することがなくなってしまった。これが今の日本企業が置かれている状況であり、この状況そのものが、80年代−90年代の日本の成功要因を徹底的に学んだ欧米諸国により意図的に作り出されたものだと指摘します。つまり、インベンションにおける日本の優位性を無効化するような世界の構造が作られてしまったというわけです。
関連して、「真珠湾マレー沖海戦志向」というものが紹介されています。第二次大戦中、真珠湾でもマレー沖でも空軍力で勝利をおさめたにも関わらずその勝利要因を分析しなかったために、逆に敗戦要因を分析し空軍に徹底的な資源配分を行なった連合国に対して、巨大戦艦を建造し続けるといった過ちを犯したというものです。
妹尾氏はこのことが現在のイノベーションを巡る構造についてもいえると指摘します。日本企業は、従来モデルの自覚もなく、新しいモデルにも気付いていない。ましてや新しいモデルをつくろうとすることもないとしています。
他の議論も含めて、この領域の議論において共通しているのは、ルールをつくることの重要性です。まさにこの書籍のタイトルが示しているように、客観的事実としての優位性を持っていたとしても、市場におけるルールに即していなければそこで成功することは難しいのです。
日本人はルールは与えられるものという意識が強いのかも知れません。これまで世界を支配するルールを作ってきた経験もそれほどないかも知れません。慣れないことをするのは時間がかかるかも知れませんが、ルールを適用される側に立っていることに危機感を持ち、ルールを定める側に回ろうとする方向に舵を切ることが必要なのではないかと思います。