UNIQLO CALENDARが伝える日本の姿


UNIQLO CALENDARの夏バージョンが公開されました。
プレスリリースによると、今年の6月の最初のバージョンが公開されたUNIQLO CALENDARは、UNIQLOCKを越えるスピードで世界に広がっているということです。
夏バージョンは、春バージョンの42カットを越える99カットあり、ずっと見ていても飽きません。
ふと感じたのは、このUNIQLO CALENDARが日本のありのままの姿を世界に対して伝える格好のメディアになっているのではないかということです。しかも、UNIQLOに興味を持つような、ちょっと感度が高い世界の人々に対してです。
UNIQLO CALENDARには様々な日本らしさが詰まっています。密度の高くてコンパクト感のある都市、整然とした産業インフラ、ライトで豊かな自然、祭りや盆踊り、花火といった生活にとけ込んだ伝統、調和度の高い人の動きなんかです。
ミニチュアっぽく見える独特の撮影方法と、テンポのよい早回しの演出によって、よりその日本らしさが際立って伝わってきます。日本独特のピースフルな世界が詰まっていて、じーっと見ていると改めて日本の良さがじんわりと感じられてきます。制作者もなんとなくこうしたことを意識しているのではないかと想像します。
しかし、春バージョンの時もちょっと思いましたが、どうやってロケハン→ロケ地の選定をしているのだろうと思ってしまいます。それぞれのロケ地に強烈なテーマ設定がある訳でもないのに、ある一定のメッセージ性と安定感をもったコンテンツに仕上がっています。適当に探して、逆アオリで撮ればそれなりに見えるのかも知れませんが、それにしても今回は、祭りや花火など季節性の高いコンテンツをタイムリーに届けていて、それなりの計画性があったに違いないと思います。このあたりをさらさらっと進めてしまうあたりも日本ならではの企画&プロダクション能力の高さなのではないかと感心が止まりません。
もう一つ気になっているのは、これがどうやって撮影されているかということです。ひょっとするとデジタル一眼に、一眼用のティルトレンズをつけて、連射モードあるいは、最近採用され始めているデジタル一眼の動画モードで撮影されているのではないかと想像します。そうだとすると、デジタル一眼のコモディティ化があって始めて成立する映像表現ということで、その的確な応用にもまた感心がひとしきりです。

脱既存フレーム型商品を生み出した二つのポイント


またまた昨日の続きです。
どうしたらParty-shotのような製品を生み出すに至ったか、日中ぼんやり考えていました。
これは想像に過ぎませんが、二つの大きなステッップがあったのではないかと考えています。
一つ目は、写真撮影において、写真に関心とモチベーションを持つ撮影者は撮影対象になる機会は少ないというまったくもって当たり前な事実と今一度真剣に対峙したということです。特にパーティなどの用途において、真面目な撮影者であればあるほど実は寂しい思いをしている、というユーザーインサイトへの気づきが重要だったのではないかと思います。この寂しさを解消するにはどうしたらいいんだろうか、という問いが立てられるかどうかが、このような脱既存フレーム型の製品に到達する最初の一歩だったのではないでしょうか。
それでは、どうすればそのような気付きを得ることができるでしょうか。いろんな方法論があるかと思いますが、エスノグラフィ手法のようなユーザーの利用文脈の観察は一つの有効な手段なのではないかと思います。しかも、カメラのスペックを追いかけるようなタイプの観察ではなく、あくまで幅広い利用オケージョンにおける、ユーザー視点に立った、体験起点の観察調査が必要です。
今回のケースでエスノグラフィが採用されたかどうかは不明ですが、エスノグラフィによって様々なユーザー文脈を観察することで、このようなインサイトに到達できることは想像がつきます。
二つ目は、上記のユーザーインサイトと技術をうまく掛け合わせたという点です。しかも、以前ここでも書いたハード志向・最先端技術志向から脱却した形でこの掛け合わせを行っていることがポイントなのではないかと考えています。
このParty-shotのケースでは、さすがに枯れたとまでは言いませんが、そこそここなれた技術である顔認識技術が使われています。撮影対象者の笑顔を感知してシャッターを切るという機能がありますが、これも既存技術の範疇です。例えば、撮影対象となる人の写真をあらかじめ登録し、その人をメインに撮影するようにするといった、使い勝手よりも技術的なチャレンジを優先したような機能は採用されていません。あくまで既存技術でできる範囲に留めているのです。
多くのメーカーはユーザー視点よりも、最先端の技術を使わなければ評価されないという脅迫観念(Obsession)を持っているのではないでしょうか。技術志向のObsessionは時としてユーザーの体験を無視したものになりがちです。「こなれ」が足りない先端技術は時としてユーザーに負担を強いることもあるでしょう。ユーザーの負担も少なく、メーカーとしてもハンドリングしやすい技術の組み合わせを前提とすることが、よりユーザー視点に立った技術の掛け合わせを成功させているのではないかという気がするのです。

新しい行動様式を生み出すプロダクト


ソニーから、カテゴリーの常識を超えた非常にイノベーティブなデジカメアクセサリーが出ました
人の手を借りず、デジカメ自体が自動で撮影を行なうというクレイドル状のアクセサリーです。パーティ会場の真ん中に置いたりすると、クレイドルの回転&上下動作とデジカメ自体のズーム機能によって、様々なアングルで自動的にシャッターが切られるという仕組みになっています。
特徴的なのは、デジカメに内臓された顔認識機能と連動することで、カメラが適切な構図を自動的に把握した上でシャッターを切ってくれるということです。しかも、なるべく同じ構図は避けるようになっているみたいです。
写真は人が撮影するものというカメラの常識を軽々と越えているのは注目すべきです。それだけではなく、撮影主体のロボット化による抵抗感の無化が、写真の新しい局面への展開を感じさせます。
パーティ会場なんかよりも、例えば対談やグループインタビュー、フィールドワークなどの現場に大きな貢献をもたらしそうです。どのシチュエーションも、撮影する−撮影されるの関係性が緊張感をもたらすことが面倒だったりします。でもこの撮影ロボがあれば、これが勝手に写真撮りますんでといってそのあたりにおいておけばいい訳です。撮影されることがシリアスであればあるほどその力を発揮しそうです。新しい行動様式が生まれそうなプロダクトに期待が高まります。

アジア市場獲得に向けて経産省が動く


経済産業省が日本企業のアジア市場獲得を念頭においた研究会を設立しました。「アジア消費トレンドマップ研究会」という名称で、デザイナーなどに各専門家が参加しています。第一回の研究会には原研哉さんも参加したようです。アジアの消費トレンドを知ることで、国内のアパレル、自動車、家電などの産業分野にフィードバックを行なうことが目的のようです。
国内市場の縮小を考慮すると、日本企業の持続的成長維持の鍵はこれまで以上の海外市場の取り込みにあります。特に、文化圏が近く、輸送コストも低いアジア圏の市場獲得は重要です。これらの地域では、中国、ベトナムインドネシアといった国々でミドルクラス市場の成長が見込まれています。ミドルクラスをターゲットと考えたときに、トレンドの把握は重要な要素になります。アッパークラス市場は世界のどこを切ってもそれほど相違はありません。グローバル化した世界では、アッパークラスはみんな同じような教育を受け、同じようなメディアに接しているからです。有る意味攻略しやすいマーケットだと言えるでしょう。ミドルクラス市場は国やエリアの地理的、文化的、民族的な影響下にあります。例えば、これまでスペックの優位性で高級車を売ってきた自動車会社が、ミドルクラスのコンパクトカーを売るために、ユーザーの生活文脈を知る必要が出てくるといったことが起こってきています。
朝日新聞記事には韓国のコンテンツ力が言及されていますが、コンテンツの覇権を巡る競争も激化しています。タレントや映画、音楽などの分野では、日本よりも韓国のコンテンツがアジアの若者に支持されていたりします。韓国では、サムスンや現代などの企業の数は限られるものの、これらの企業のアジアでの成長は著しいものがあります。最近、現代自動車が日系の自動車会社を押さえて中国自動車市場において第4位に躍進したというニュースもありました。韓国発のタレントや音楽が韓国製品をプロモーションするといった直接的なコラボレーションだえけではなく、韓国発のコンテンツの存在自体が韓国製ブランドの価値を向上させているという背景もあるようです。

直島の観光客が5年で6倍に


直島の観光客が5年で6倍になっているようです。人口3400人の島に100倍の34万人が訪れているようで、これはあらためてすごい!と思いました。
直島に最後に訪れたのは、5、6年前でしたが、その時はまだアート好きな人が集うやや特殊な観光地という印象でした。
直島がすごいことになっているらしいという話はここ数年周りからも聞こえてきていました。数年前にオープンした新しい美術館の影響ももちろんあると思いますが、外国人観光客が多く訪れているということでした。東京に到着してその後京都に行くという映画ロスト・イン・トランスレーションでも再現されていた定番コースに、直島が含まれ始めているという背景があるようです。
ある水準のアートが収蔵されている美術館というだけなら、珍しくはないでしょう。都市を離れた島であることや、家プロジェクトなど島の中にアートが点在していること、ホテルなどがあり滞在もできるという特徴は他にはないユニークさです。世界的に見ても特徴的な場所になっているのではないかと思います。直島に美術館がオープンしたのが1992年。それからわずか十数年の間に、これだけ特徴的な場所を作り上げた構想力と実現力に改めて驚きます。

日本で電子マネーの普及が進んだ理由


昨日の続きです。
電子マネーの普及を考えると、1995年からイギリスのスウィンドン市で行われていたMondexという電子マネーの実証実験のことを思い出さずにいられません。Mondexはイギリスの銀行とベンチャー企業の協同事業でした。世界中から多くの見学者が訪れました。知人も見に行っていたことを懐かしく思い出します。
その時は、まさかここまで電子マネーが普及するとは思いませんでした。あくまで実験であって、まだまだ先の話だろうという認識でした。実際、Mondexはカードを端末に差し込んで使う「接触型」であり、端末使用の煩わしさが問題になっていた記憶があります。クレジットカードの暗証番号認証が毎回発生するようなイメージです。確かにこのやりとりは小売店側からすると面倒です。Mondexはその後MasterCardに買収されましたが、その後世界の表舞台に出てくることはなくなっている印象です。
電子マネーの普及において圧倒的な推進力となったのは、SuicaEdyに代表される「非接触型」カードの登場です。SuicaEdyともにソニーが開発したFeliCaという技術を使っています。EdyFeliCaによる電子マネー推進のためにソニー自ら設立した会社だったりもします。FeliCa自体は1980年代後半から開発が始まり、1994年には香港の公共交通機関に非接触型切符、オクトパスカードとして採用されました。オクトパスカードは切符としてだけではなく、キオスクや自動販売機、公衆電話などで少額決済するためのプリペイド機能を持っていました。これが非接触カードと電子マネーの最初の融合ではないでしょうか。電子マネーとしての機能はサブ的な印象でしたが、大変使いやすく一気に普及しました。
イギリスの地方都市のような人口密度が低く、保守的な街よりは、香港のような密度が高く、かつアジア独特の進取の精神にあふれた場所で、電子マネーの実用化が進んだのは象徴的です。これを見た日本の関係者が、確信とあせりを感じたのではないかという想像も膨らみます。
その結果もあってか、1999年にはEdyのモニターテストが始まり、2001年にはSuicaEdyがサービス開始します。しかし、オクトパスカードの印象が強すぎたのか、Suicaデビュー当時、JR東日本Suicaが通常の買い物に利用されるメジャーな電子マネーになるとは考えていなかったようです。非接触型カードは改札の混雑を緩和するための技術であり、電子マネー機能は、あくまでオクトパスカードのような鉄道世界の中でのサブ的な機能として見ていた印象があります。
FeliCaを拡販したいソニーの思惑もあってか、2004年にはFeliCaを搭載した携帯が出ました。しかし、JR東日本Suicaスタート当初、携帯電話に内蔵されたFeliCaを利用したサービスなど想像もできなかったのではないでしょうか。そのため、今でも多くのSuica券売機は非接触型カードを採用しながら、券売機の中にカードを挿入する必要があり、非接触型カードのメリットを活かしきれていません。
これが偶然なのか、あるいは意図されたものかわかりませんが、券売機などの端末で携帯内蔵のSuicaにチャージできないことから、通信を利用したチャージが普及しました。この時点で、日本の電子マネーはぶっちぎりの世界最先端レベルに到達した印象があります。世界最大級の都市圏における最大手の公共交通インフラにおいて採用されている背景による膨大なユーザが、前人未到の通信を使った電子マネートランザクションをすいすい行っている様子はある意味痛快でもあります。
さて、まとめるとこういうことでしょうか。鉄道輸送において注目された非接触ICカードという技術が少額決済という世界に出会い、しかもデバイスは携帯電話も作っている日本のメーカーによるものだったこともあって、日本製携帯電話に次々に採用、券売機チャージの使い勝手の悪さから一気に通信によるトランザクションが普及。
さて、これらな流れにはどれくらい意図された全体デザインがあったのでしょうか。確かに、1990年代のスウィンドンの実験ではいろいろな全体デザインがありました。しかし、15年ほど経った今、その全体デザインが実現しているかは疑問です。全体デザインというよりも、その場その場の個別課題に柔軟に対応した結果が現在の日本のイノベーティブな状況に貢献しているのではないかという印象を持ちます。電子マネーの先進的な普及をケーススタディとして考えた時に、日本ならではのイノベーションのあり方が見えてくるのかも知れません。

おサイフケータイが米国で進まない理由


おサイフケータイアメリカで普及していないこととその理由についての記事がIT Mediaに出ています。もともとはロイターの記事のようです。
そういや、アメリカで非接触チップ埋め込みの携帯が普及する気配はありません。iPhoneBlackberryなどのスマートフォンにもこの機能はありません。記事によると、ICカードだけではなく、携帯による送金も普及していないことがわかります。
記事中ではいろんな理由が散発的に説明されていますが、いまいちピンときません。あれだけクレジットカードやデビッドカードが普及しているのに、不思議です。
逆に考えると日本において急速に普及しすぎているという見方も出来るかもしれません。もともと非接触ICカードそのものは、台湾や香港などの鉄道において先行して利用されていた印象がありますが、SUICAPASMOを始め、日本のインフラ整備は信じられないくらいスピーディに進みました。モバイルSUICAや小売店における非接触端末の整備に関してもとてつもない普及スピードです。このことからも日本におけるイノベーション受容度の高さが伺い知れます。